2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

痣 第3回

数日後、それは三月末の季節外れの雪が降りしきる日であった。 体育館には次々と親たちに付き添われた生徒たちが入場していた。 彼らが外から身に纏ってきた春の雪はたちまち解け、 床に薄い水たまりを作った。 職員たちはモップを持って入り口付近の濡れた…

痣 第2回

そこは数年前に新設された県立高校で、 沢木は四月から勤務することになっていた。 敷地内に足を踏み入れると、 先ほど遠目から見た無愛想な四階建てのコンクリートの建物があっ た。玄関を入ると両脇にガラスケースがあり、 その中には運動部の活躍を示すト…

『フランケンシュタイン』を読んで

物語は北極海の探検に向かうウオルトン船長が姉のマーガレットに 送る書簡の形で始まる。彼はその航海の途中にヴィクター・ フランケンシュタインと会い、彼の話に引き込まれ、 彼の数奇な運命を記録することを決意する。 全編を読んで心に迫って来たのは、 …

痣(あざ) 第1回

暫く『痣』と題した短編を綴ります。お読み頂ければ幸いです。 電車が川に架かる鉄橋を渡る時は、 振動と轟音が一段と激しくなった。 折からの降り続く雨で、川の水は勢いを増している。 この私鉄の終点は山ふところに拡がっている江戸時代から製陶業が 盛ん…