2024-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『死の家の記録』を読んで

最近、ドストエフスキーの『死の家の記録』を読了した。 今まで読んでいた彼の作品『カラマーゾフの兄弟』や『白痴』 の中で言及されているテーマがこの作品の中に先駆けとして現れて いることに気づかされた。これは彼の書いた創作作品である。 妻を殺害し…

痣 第7回

「君は数年ほかの社会を経験してきたというじゃないか。どうだ、ここでうまくやっていけそうか」 久米はだいぶ酔っているらしくその言葉には絡みつくような悪意が感じられた。 「そうですね。まだ日が浅いので何とも言えませんが。でも上からの指示が絶対と…

痣 第6回

その後はオリエンテーリングに移り、班どうしの競争になっていった。あくまで班員は班長の指示、判断に従うことが求められ、初めは無邪気に騒いでいた生徒たちも次第に周りを窺うような伏し目がちの眼になり、表情もあいまいなものになっていった。その様は…

痣 第5回

四月に入り、校門脇の桜は満開であった。植えられてから日が浅いため、幹は細かった。近隣の県営の公園施設で、新入生のために二泊三日のオリエンテーション合宿があると聞いたのは入学式の日である。校務主任はそれに先立ち、参加する新しく赴任してきた教…

痣 第4回

夜になり、雪はいよいよ激しく降りしきっている。 近くを走る車の警笛が聞こえたが、 それはまるで閉ざされた世界の向こう側から聞こえてくるようであ った。 台所のテーブルの上にはありあわせの材料で作られた夕食が 並んでいた。沢木は缶ビールの蓋を開け…