2024-04-01から1ヶ月間の記事一覧

痣 第15回

このところ定期テストの採点などで忙しく沢木は美術室から足が遠 のいていた。授業後、 久しぶりに疲れた頭を癒そうと美術室に向かった。 ところがドアを開けようとしても鍵がかかっていることに気づいた 。しかしなんとなく中からは人の気配が感じられる。 …

痣 第14回

よく晴れ渡った空にはむくむくと湧きあがるような雲があったが、 盛夏に比べると形は小さかった。 時ならぬ先日の台風のおかげで校庭のイチョウの木から若いギンナ ンの実が落ちている。生徒の通学用の自転車に踏みつけられて、 黄色味がかった若草色の銀杏…

痣 第13回

夏休みを間近にひかえた日射しの強い一日であった。朝の職員室にはなんとなくざわめいているような落ち着かない雰囲気があった。それがどこからくるのか沢木にはわからなかったが、朝の打ち合わせで生徒の服装検査があることを教頭から知らされた。月曜日の…

痣 第12回

学校内の図書室は新設校のせいであろうか、蔵書数はあまり多くない。生徒の自主的な活動である図書委員会もそれほど活発でもなく、委員による推薦図書の紹介や読書会の開催がなされている様子は見受けられなかった。沢木は図書室の隅の机に今印刷したばかり…

痣 第11回

沢木は二年生の倫理社会の授業のなかで時々生徒に文章を書かせていた。レポートであったり感想文であったり形式は様々であった。二、三年生は成績順のクラス編成であったが、優秀なクラスでも紋切り型や、予定調和的な文章が多かった。几帳面な文字の後ろに…

痣 第10回

一学期は沢木にとっては目新しいことばかりでまたたく間に過ぎていった。職員室でそれとなく見聞きするところによると、受験に関係する教科では到達度を測るために小テストが繰り返されているようであった。教科主任の川口はよく自分のテストで成績の良くな…

痣 第9回

戦前に開催された博覧会の跡地に作られた都市公園の緑の中に中央図書館はあった。二階へ上る階段の途中に踊り場があり、半円形に外に向けて張り出した大きなガラス窓があった。窓の外を見ると高さが二メートルを超すと思われるハナミズキが白い花をつけてい…

痣 第8回

新学期の授業が始まって一カ月が経過した。 塵ひとつなく磨き上げられたリノリウムの廊下を歩いていると、 いったい自分はどうしてここにいるのだろうという不思議な感じに 襲われるのであった。 渡り廊下の窓から外をみると運動場のすぐ脇には田畑が広がっ…