樹 第2回


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あの頃、侑子は高校の先輩の水谷が主宰する水彩画のアトリエに通い出したばかりだった。それはマンションの二階にあり、十五名ほどの社会人が水彩画を描いていた。彼は特別なことはなにも教えなかった。ただ水彩画のための用紙や絵の具、水の効果的な使い方などが教示された。水彩のもつ即興性を生かすための方法、とりわけ絵の具と水をどのように交ぜるかによってさまざまな異なった効果が生まれることやグラディエーションの作り方などの初歩的な技術を教えた。水彩は油絵とは異なり、絵の具と水の出会いによって何が生まれるか分からないという偶然性が作り出す造形が魅力であると侑子は思っていた。

  

  次回に続きます